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理由


 今日も晴れ渡る空の下
 宍戸は一人いつもの場所で座ってカタールの刃を拭いていた。

「こんにちは宍戸さん〜」
 
 ひょっこりと顔を覗かせた鳳に宍戸は顔を上げると軽く笑った。
「よう長太郎、こんな時間から来るなんて珍しいな」
「まだ誰もいないかな〜と思ったんですけど宍戸さんがいたから、宍戸さんこそ早いですね」
 いつも待ち合わす時間にはかなり早い。
 隣りに腰を降ろすと鳳は宍戸の腰元を見た。
 その袋は膨らんでいて、すでにどこか狩りに行った後なのだということが窺える。
「あぁ、ちょっと久しぶりにモロクの方に行ったからスフィンクスのダンジョンを覗いてきたんだ」
「いい物拾えました?」
 モロクの街は宍戸の出身地でもある。
 武器の手入れをしている宍戸の表情を見ながら悪くはなかったんだろうと思いつつ鳳は尋ねた。
「そこまで悪くはなかったけど、すげーいいってほどではなかったな」
 そう言って宍戸が見せたのはいくつかのエルニウムの原石。
 売れば金にもなるがエルニウムに精製すれば防具の精錬材料に仕える。
 後々のことを考えると取っておいた方が得策だろう。
「いいじゃないですか、おめでとうございます」
 カチャカチャと音を立てて再び袋にしまう宍戸に鳳は自分のことの様に笑った。
「あそこはかなり行ってるから、慣れてるってのもあるんだろうな」
 確かにモロク周辺にはシーフやアサシンをたくさん見かける。もちろん同じシーフから派生したローグも…


「そういえば、宍戸さんはどうしてアサシンになったんですか?」
 ふと、鳳は質問をぶつけてみた。
「何で…ってどういう意味だ?」
 質問の意図がわからないと宍戸は首を捻って鳳を見つめる。
「やっぱりモロク出身だからなろうと思ったんですか?でも同じスピードを生かすならローグになることだって可能なはずなのに…」
「そういうことか」
 宍戸と鳳が初めて出会ったとき、二人ともまだ一次職で宍戸はシーフ、鳳はアコライトだった。
 一次職から二次職になるためには数々の試験を行い知識・経験を必要とされる。
 それは一次職になるのとは比べ物にならないほどの厳しさなのを鳳もよく知っていた。
「まぁ周りにアサシンがいっぱいいたから俺もなるものだと思ってたし…俺はスピードが売りだしなぁ。ローグには…ちょっとな」
 そうなんですか、と宍戸の言葉に頷く鳳。

「でも…やっぱりこの職業につくには覚悟がいるしな」

 言葉の途中でふと、顔を曇らせた宍戸を鳳は不思議そうに見つめた。
「覚悟って、どういうことですか?」
 どの職業にも長所短所があり、どの職業が一番ということはない。
「俺の職業はアサシン、暗殺者だ。金をもらって人を殺す。そんな奴がこんな表に出て、お前の様な奴と話してていいと思うのか?」
 寂しそうに笑う宍戸に鳳はハッとした。
 確かに鳳は神に仕える聖職者。本来なら闇に生きる宍戸とは正反対の位置にいる。
「で、でも宍戸さんはそんなことしませんし俺のことも助けてくれるじゃないですか」
 焦りながらフォローを入れる鳳に宍戸は苦笑いを浮かべる。
「サンキュー長太郎、そう言ってくれる奴がいて俺は嬉しいぜ。長太郎は職業なんか関係なく俺のことを俺として見てくれるもんな」
「宍戸さん…」
 微笑む宍戸に鳳はジーンと感動して胸の前で手を握った。
「長太郎、俺みたいな奴でもお前みたいな仲間がいるなら…てぇっ!」
 ボコっと音がして宍戸の頭が勢いよく地面に叩きつけられた。

「何かっこつけてんだよ」

「跡部さん?」
 驚いた鳳が顔を上げると、そこにはぺこぺこの上に乗った男がいた。
 顔は逆光で見えなかったが、明るい金髪と尊大な物言いに思い当たる人物は一人しかいない。
「いってえな跡部、いきなり何すんだよ!」
 唇を噛んで立ち上がると宍戸は跡部を睨みつける。
「お前が鳳にかっこつけて嘘ついてるから、俺は訂正を指摘しにきてやっただけじゃねえか」
 ニヤリと笑う跡部に宍戸はグッと言いよどむ。
「嘘?さっきの事は違ったんですか?」
「それは…」
 鳳に真っ直ぐに見つめられて宍戸は視線を逸らす。
 そんな宍戸を跡部は相変わらず口の端を持ち上げて見つめていた。
「そんなに知りたいなら俺が教えてやるぜ」
「跡部!」
 言うなと手を伸ばすが、子供の背ほどのぺこぺこに乗った跡部に手が届くはずがない。
 宍戸の手を軽く払うと跡部は指で鳳を招き寄せる。
「聞くな長太郎!」
 宍戸の叫びも好奇心には勝てず、近づく鳳の耳元で跡部は楽しそうに囁いた。

「アサシンになった理由はただ一つだ『見た目がカッコイイ』ただそれだけなんだよ」

「…へ?それだけなんですか?」
 顔を離した跡部に鳳は目を丸くして聞き返した。
「シーフの時に宍戸から俺は聞いたぜ。ローグは似合わねえからなりたくねえって、なぁ宍戸」
 クスクス笑う跡部の視線を追って鳳も視線を向けると…
「宍戸さん?」
「…なんだよ」
 壁に頭をつけて小さくしゃがんでいた宍戸は、振り返ると耳まで真っ赤になっていた。
「あぁそうだよ、俺はアサシンの格好がカッコイイからなりたかったんだよ!悪いかよ」
 悔しそうに言い放つと宍戸は照れ隠しに壁をガンガン殴る。
「じゃあさっき宍戸さんが言ってたアサシンの苦悩っていうのは…」
「だって…単にカッコイイからなんて理由言ったら俺、激ダサじゃねーかよ」
「宍戸の方が年上だから鳳にはカッコイイ所見せたかったんだよな」
 口を尖らせて座る宍戸に跡部は持っていた剣の鞘で頭をグリグリ撫でる。
 そんな鞘を思いっきり押し返すと言い返せない代わりにキツク睨み付けるが跡部はさらに笑うだけ。

「で、でも俺は宍戸さんカッコイイと思いますよ?」

 落ち込む宍戸に鳳は背後から声をかけた。
「同情か?んなもん俺はいらねーぞ。どうせ俺は見た目重視アサシンだよ」
 すっかり捻くれて呟く宍戸の目の前に鳳はちょこんと座った。
「違いますよ、宍戸さんは本当にカッコイイです。理由なんて関係ありません。今の宍戸さんがカッコイイんです。少なくとも、俺にとってはカッコイイ宍戸さんですよ」
 ニッコリと微笑む鳳に宍戸は目を瞬かせた。
「本当か?」
「はい!」
 天使様な微笑みで言い切った鳳に、宍戸は目を輝かせた。
「よし長太郎、今日はどこに狩り行く?俺がお前を守ってやるぜ!」
 途端に機嫌を直して立ち上がった宍戸は、晴れやかに鳳を見下ろした。
「はい、ありがとうございます!」
「じゃあとりあえず俺は倉庫に行って預けた武器を取ってくるから、ちょっと待っとけよ」
 手を振る鳳に宍戸は流れる髪を翻してレンガで敷き詰められたプロンテラの街並みを走って行った。


「鳳もご苦労なことだな、宍戸のご機嫌とって」
 宍戸の背中を見ながら跡部は小さくため息をついた。
「そうですか?でも宍戸さんはアサシンがすごく似合ってますよ。それは跡部さんもよくわかってますよね?」
 ニコニコと微笑む鳳と視線があって跡部は少し眉を顰める。
「だって跡部さんだって宍戸さんが似合ってると思ってるし、実際に見てて仲良しですもんね」
「…本当にそう思ってんのか」
 不機嫌そうになっていく跡部を見ても鳳は怯むことなく言い続ける。
「もちろんですよ。たまに俺が羨ましくなるくらいですし」
「宍戸の相方は鳳だろ」
「だからですよ。なのに宍戸さんと跡部さんは仲がいいから、でも俺だって負けませんよ」
 ジッと跡部は見つめるが、鳳の真意の底は見えない。
「…そう思いたいなら勝手に思っとけ」
「はい、わかりました」
 舌打ちする跡部はクルリと背を向けると壁際にぺこぺこを座らせて腰を降ろす。
「あ、でも跡部さん」
「何だ?」
 少し不機嫌な声の跡部は振り向かずに答えた。
「俺は跡部さんもすごくカッコイイと思いますし、好きですよ」
 宍戸さんの次に、と小さく付け加える鳳に跡部はそうかと返した。
「だから、いつか跡部さんがクルセイダーになった理由も教えてくださいね」
「は?」
 唐突に出された話題に跡部が振り返った。
「宍戸さんのことあんなに笑ったんですよ、跡部さんにはさぞ素晴らしい理由があるんだと思います」
 微笑む鳳に跡部は何か言おうとして、そのまま言葉を飲み込んだ。


「そろそろ宍戸さん返ってきますね。今日はどこ行きましょうか」
 先ほどの空気を払拭するように微笑む鳳に跡部は一つため息をつくと近寄り鳳の地図を覗き込んだ。
「今日は宍戸がお前を守るとか抜かしてやがったからな、ちょっとレベルの高い狩場に行こうぜ」
 ニヤリといつもの笑顔に戻った跡部は、宍戸の力量とマップに載る狩場を考えながら捜す。
「いっぱい稼いで、レベルアップできるといいですよね〜」
 笑いあう二人の元に宍戸が駆けてくるのが見えた。


 今ここにいる、それがそれぞれの存在理由



終了