俺という男


「ねぇねぇ、南は誕生日何か欲しいのなかったの?」
「特にないな」

 七月三日は俺、南健太郎の誕生日。
 山吹中学テニス部所属、これでも部長。
 二年のときにダブルスで全国に出場経験有り、もちろん今年も狙っている。

「え〜、俺は南の誕生日祝いたいんだけどなぁ」
「部活後にみんなでケーキ買って祝ってくれただろ?」
「俺が個人的に祝いたいんだよ!せっかくつきあってるんだしさ…」

 男だけど彼氏あり…言っとくが誰にもばれていないはず。
 その彼氏というのが、部活後そのままうちに押しかけて来たかと思えば本当に誕生日に欲しいものは無かったのかと確認する千石清純。
 付き合う前から割りと仲はよかったと思う。
 からかったりわざと部活サボってしてたのは全部俺の気を引きたいため、なんて普段では見ることの出来ないようなしおらしい態度で言われて参ってしまった。
 今思えば俺も告白される前から千石のことそういう対象として気になってたんだろうな。

「好きな人の誕生日ってのは特別だろ、だから考えたけど南の趣味て地味だから何がいいのかわかんなくてさ」
「地味って言うな」
 千石は付き合う前から俺の事を好きだと言ってた。今もよく言って来るけど…
「南は俺のこと好きじゃないの?」
「付き合ってるのにそういうことを聞くのか?」
 違う、本当はもっと気の利いたこと言いたいのに。
 千石は時々こうやって聞いてくる。
『好きだぞ千石』とか『愛してる』とか
 俺だって千石のこと本当に好きだから、テレビドラマで聞くような言葉何かも色々と思い浮かぶんだけどどうしても照れくさくって言えない。
 
「たまには南の口から聞いてみたいなと思うんだよー」
「…わかれよ」
 隣に座って寂しそうに言う千石の顔をチラっと見ると、節目がちなところが可愛くてついグッとくる…なのに俺の口から出る言葉は千石を喜ばさない言葉ばっかり。
「悪い」
「そんな言葉が聞きたいんじゃないよ」
 正直、俺もここまで不器用だと思っていなかった。
 好きだと色んな奴に言える千石のことを付き合うまでは軽薄だとか思ってたけど、今はそうやって口にできるのはすごいとすら思ってしまう。
 誕生日に何が欲しいって聞かれても、好きだと言える勇気が欲しいなんて言えない。

「でもまぁ、そんなとこも合わせて南が好きなんだけどねー」
 顔を上げてニッと笑うその笑顔は無理をして作ってるんだと俺は知っている。
「千石…」
 言いたくても言えない。こんな俺の事を好きだと言ってくれる千石を俺は正面から抱きしめた。
「南?」
 上手く言えない俺の気持ちを伝えるいつもの手段。
 触れた部分から、気持ちが全部流れ込んでしまえばいいのにと思うけどそうはいかない。
「俺はその…」
 このまま何も言わないままだと嫌われるんじゃって思う時もある。
「その?」
「なんて言うか…」
 ダメだ、言えない。すげー顔が熱いから俺の顔はみっともないくらい赤くなってるんだろうな。
「…」
 千石を抱きしめてそのまま無言のまま数分経過。
「…みーなみ」
 小さなため息のあと千石が俺の頭をポンポンと撫でた。
「俺は大丈夫だよ、南が好きって言ってくれないけどちゃんと俺のこと好きなの知ってるから」
 体を離して見た千石の顔はへにゃっと情けなく崩れていて、いつも俺を好きだと言う俺の好きな笑顔だった。
「さりげなく俺のこと気遣ってくれたり、あとよく俺のこと見つめてたりするでしょ。付き合う前よりも南が俺のこと好きってちゃんと実感してる」
 俺の手を握る千石が可愛くて、俺はもう一度抱きしめた。
「ありがとう…」
「俺は何もあげてないよ?」
 千石が俺のこと好きだって言って、俺が好きなこともちゃんとわかってくれてるってのが何よりのプレゼントだ。
「こういう事に関して不器用でごめんな」
「んっ…今日はずいぶんとスキンシップ激しいね、俺としては嬉しいけどさ。それも南っぽいって、恋愛に手馴れた南なんて南じゃないよ」
 抱きしめたままキスをすると、千石は真っ赤な顔で口を押さえて驚きを笑ってごまかしている。


「千石の誕生日はちゃんと千石の欲しいのやるから考えとけよ」
 あの後、特にたいした会話はしないまま時間が過ぎていった。
 玄関まで送ると千石は少し考えるような顔をして何故かニヤっと笑う。
「俺としてはもうもらったからいいんだけどね〜」
「?」
 その笑顔は何度も見たことのある悪戯をした時の顔で、どういうことだと考えてると千石はポケットから何か紙切れを取り出した。
「これ、もらっちゃった♪」
 その千石が出した紙は見覚えがあって…
「お前何持ってるんだよ!返せ!!」
「やーだよ、南から俺へのラブレターなんて一生もらえないかもしれないんだし」

 昨日千石が来るだろうと思った俺は普段言えない気持ちを手紙に書いてみようと思った。
 でも、何を書こうかと考えているうちに恥ずかしくなって結局書くのを止めたのに。
「そんなのラブレターなんて言わないだろ」
 千石が持ってるのはその時にメモった落書き。ちゃんと捨てたのに何で見つけるんだよ。
 落書きだけどそれにはしっかりと『千石』や『好き』だの『大事』だの文字が書いてあって、鋭い千石には何のことだかすぐにわかったんだろう。
「俺にとってはそうだよ、南の誕生日なのにいいのもらっちゃった♪」
「バカやろう…」
 追いかけてふんだくってやろうかと思ったけどあんまりにも嬉しそうに千石が笑うから、ツッカケで見送りに出たのを自分への言い訳として俺は千石を追わなかった。
「じゃあね南、また明日」
「あぁまた明日な」
 手を大きく振りながら去っていく千石が見えなくなるまで俺は見送る。


 これからも千石は俺に『好き』だといい続けて俺は『好き』だと中々言えない
 それはずっと、ずっと続くだろう

 ずっとなんだ

 わかってるか千石?ずっとなんだぞ

 ずっと…ずっと一緒にいような



終わり

某歌の歌詞をイメージして書きました。