東方誕生日話


 身長187cm

 テニス部所属(過去に全国大会行ったことあり)

 ダブルスのパートナーは部長の南

 趣味はジム通い(そこそこ見せられる体はしてると思う)

 通称「地味ーズ」(南とセットでそう呼ばれる)

 …俺って地味か?



 そして、誕生日は9月10日







9月10日
〜朝〜

「おはよーお兄ちゃん!」
「ぐぇっ!」
 寝ている所に突如重圧を感じ、俺は爽やかとは言いがたい目覚めを強いられた。
「何だよ朝っぱらから」
 目を開け腹の上で座っている妹を睨みつけると笑いながら奴はコンビニの袋を目の前でプラプラさせた。
「?」
「誕生日おめでとう!コンビニのケーキだけどいいよね」
 こんな朝からわざわざ買いに行ったっていうのか?
 いい奴だなぁ

「昨日買ったの食べ忘れてたんだけどさ、コンビニのって保存料とか入ってるから大丈夫だよね♪」

 ・・・おい!
「私もう出かけるからじゃーねー」
 俺が何を言おうか考えてる間に、奴は部屋から出て行ってしまった。




〜昼〜

 俺の朝ごはんは妹からもらったコンビニのケーキ(昨日の)だった。
 甘いの好きだし誕生日って言ったらケーキだし、一応はありだよな。
「雅美、南くん来たわよ〜」
「わかったー」
 昨日南からプレゼントとして奢ってやるってメールきてた。
 玄関に行くと南がいたので俺は靴を履いて二人で家を出る。

「なぁ南、どこ行くんだ?」

「黙ってついてこい」
 何故か南から不機嫌そうな返事が返ってきた。
 俺、何か怒らせるようなことしたっけ?
「お前が絶対喜ぶって千石が言うから、俺は反対したんだぞ」
 口調はどこか悔しそうで…どこに行くんだ?


「みーなみ、東方こっちこっち」
 歩いていると千石が手を振って俺たち見ている。
「おはよう千石。奢ってくれるって、どこに行くんだ?」
 千石に問いかけると、千石は驚いたような顔で俺と南の顔を交互に見た。
「南まだ言ってなかったんだ」
「どうせ千石が言うからいいだろうと思ってたんだよ」
 何のことだかさっぱりわからない。
「あ、行けばわかるって」
 ニヤっと笑みを浮かべると千石は先頭に立って歩き始めた。


 ここは…


 一ヶ月ほど前、千石が持ってた情報誌を俺は横から覗き込んでた。
 そこには都内の人気ケーキ屋の特集があり、俺はその中でも一軒の店が気になってしまった。
「この店うまそうだな」
「でも結構人気あるから並びそうだよね、小さい割りに高そうだし」


 よく覚えてたな千石。
 俺が立っているのは間違いなくあの時会話に出た店。
「ありがとうな」
「どーいたしまして」
 頭を撫でると千石は胸を張って笑った。
「というわけで予約してるから早くいこ♪」
 俺の腕を引っ張ると、千石は店へと入る。
「…」
 南が不機嫌な顔してたのはこういうことだったのか。
 甘い物嫌いじゃないけど人前で食うなとか男のクセにとか何かと世間体を気にする南にとってはこういういかにも女の子ばっかの場所は来たくなかったんだな。


「うわー、美味しそう♪」
 席に座った俺達の前に運ばれたケーキと飲み物に千石が感嘆の声を上げる。
 千石は抹茶とチョコのケーキ。俺は二人のおごりということでシブーストとタルトを、南は無難にシュークリームを注文した。
「綺麗だよな」
 皿の上に乗せられたケーキに俺も角度を変えて見ている。
「甘そうだな…」
 南だけが覚悟を決めたような声を絞り出していた。

「東方、これ抹茶の部分がムースだよ」
 左側から千石が自分の皿を差し出してきた。一口もらうと確かにほろ苦いけどチョコの甘味がしっかりしてる。
「東方のも一口いい?」
「いいぞ」
 俺の返事を待って千石がシブーストにフォークを突き刺す。
「クリームが甘くて柔らかくて美味いねぇ」
 キャラメルを焦がした香ばしいキャラメリゼとクリームが絶妙に美味い。
 もう一つのレモンのタルトも表面のメレンゲの甘味とレモンの酸味がマッチしてる。

「…」

 ふと、右側に座ってる南が無言になってるのに気付いた。
「どうしたんだ南?」
 見ると眉間に指をあてている。
「これが尋常じゃないくらい甘い…つーか頭痛い」
「大丈夫か?ほら水飲め」
 苦しそうな南に自分の水を渡すと、南は一息で飲み干した。
「サンキュー東方」
 南が『これ』と言ったのはさっき頼んだアイスチョコドリンク。
 そんなに甘いのか?
「千石がココアみたいだからって言うから頼んだけど…チョコ溶かした味がする」
 どれどれと一口もらうと、確かに甘い。
 なんていうか、濃い。南の言ったチョコレートを溶かして飲んでるっていうのは言いすぎだけど、匹敵する甘さだな。
「え〜、結構美味しいと思うけどな」
「俺の紅茶でよければ飲むか?砂糖入れたから少し甘いけど」
 コップを受け取った千石は平然とストローを銜えている。そんな千石を信じられないという表情で見ながら南は俺の紅茶を手にした。


「南にはちょっと甘すぎたかな」
 何だかんだと言いながらも全部食べて俺達は店を出る。
 南が頼んだチョコドリンクは千石が、シュークリームの残りは俺が食べることになった。
「まだ何か喉に絡んでる感じがする」
 しばらくは南に甘い物見せないほうがいいかもな。
 ちなみに、ほとんど食ってないってことで結局千石が全部奢ってくれた。
「甘い物を美味しく食べられないと女の子とデートできないよ」
「俺はコーヒー飲んでおくからいい」
 ニヤニヤ笑う千石を睨みつけると、南は俺に視線を向ける。
「明日リベンジするからな!」
 何故か宣戦布告をして南は走り去って行った。
「俺も帰るね〜」
 走り去る南の背中を楽しそうに眺めてから、千石も手を振って帰っていった。

 俺も帰ろう。




〜夜〜

 それにしても、朝と昼にケーキでさすがに胃がもたれてるかな。
 ベッドの上に転がって腹をさする。
「いい加減ケーキ以外の物も食いたいな…」
 晩飯になれば食える。俺はそう信じてうつらうつらと転寝を始めた。


「雅美〜、ご飯よ!」
 ちょっとのつもりがかなり眠っていたのだろうか、気づけば部屋の中が真っ暗になっている。
「今行く」
 母さんに声をかけて部屋から出た。
「雅美、お誕生日おめでとう」
「おめでとうお兄ちゃん」
「おめでとう」
 居間にはすでに父さんも座っていて、妹もいつの間にか帰って来ている。
 そして何より、俺の好物のハンバーグが置いてあった。
「ありがとう」
 この年になって家族に祝われるとか照れくさいけど、イスに座ると母さんが台所から何か巨大な物を運んでこようとしたのが見えた。
 まさか…

「雅美のためにお母さん頑張って作ったのよ」

 デーンと効果音付きでテーブルに置かれたのは間違いなく誕生日ケーキ。
 だけど普通じゃないのはそのデカさだった。そこらへんの店で売ってるケーキの二倍は余裕であるぞこれ。
「よかったな雅美」
「いっぱい食べれてよかったねお兄ちゃん」
 恐ろしいことに家族はみんな母さんの味方だった…
「半分は雅美のよ」
 いくら俺が食べ盛りだからってホールの半分なんて多いだろ。
 半円だぞ180度だぞ!
「あのさ、ちょっと多いだろ。俺こんなに食べきれな…」

「雅美はお母さんのケーキが食べられないって言うの!」

 普段じゃありえないテンションで泣き崩れる母さんに父さんも妹も俺を睨む。
「お兄ちゃん酷い、お母さんが可哀想!」
「全くだ」
 誕生日ってのは虐められる日なのか?これは何かの罰ゲームか?
 あぁそうか、生んでくれた母親に感謝する日なんだな。
「食えないというなら雅美はケーキを全部食べてから他を食べればいい」
 呆然とする俺に父さんの声が遠くから聞こえる。


 

〜翌日〜

 今の俺の成分は99%がケーキで出来てる気分だ。
 朝も昼も胸焼けがして何も食べられなかった。なのに、まだ嫌な予感がする。

「東方連れてきたよ」

 放課後、なぜか千石に引っ張られてきたのは部室。俺の嫌な予感はますます強くなる。
「お誕生日おめでとうございます!東方先輩」
 扉を開けるとそこには後輩達…中央の机の上の白い物体は見えない。俺は何も見ていない。
「東方先輩は甘い物が好きだから、家庭科室を借りてみんなで作ったです!」
 今は太一の笑顔が恨めしい。いや、太一だけじゃなくて後輩みんなの好意が俺には痛い。
「よかったねぇ東方、この幸せ者!」
 横から肘でつつく千石すら殴りたくなるほど俺は幸せ者だよな。
 はっきり言って24時間近くケーキしか食べてない。誰か助けて…

「東方!」

 意識が遠くなりそうな俺を救ったのは頼れる相棒の声。
「どうしたんだ南?」
「リベンジだ」
 近寄ってきた南が渡したのはスーパーの袋。
「お前ハンバーガーよりはハンバーグの方が好きだし、けど俺あんまり金ないから」
 中を見るとそこには二つセットで100円の真空パックのハンバーグがたくさん入ってた。

 ハンバーグ

 ハンバーグだ

 やっとケーキ以外の食べ物だ

「南!ありがとう!!」
「嬉しいのか?東方」
「当たり前だろ!」
 俺の喜びように南は目を丸くしながらも満足そうに笑う。
 やっぱり南は俺の相棒だ、むしろ愛してる。
「俺のパートナーは南以外考えられない」
「泣くなよ、お前本当にハンバーグ好きだな」
 俺は南に抱きついた。24時間耐久ケーキなんて罰ゲームだよな、さすがの俺だって神経が参る。

 地味でいいから、来年からは誕生日にケーキをくれそうな奴は予め聞いて確認しておこうと肝に命じた俺だった。




〜おまけ〜

「えーっとー、このケーキはどうしますー?」
「どう見てもハンバーグにメロメロだからさ〜、俺達で食っちゃってもいいんじゃない?」
「東方先輩ってあんなキャラだったんですか、ちょっと信じられません」
「案外変だよ、東方って。やっぱり室町くん達は知らなかったんだ。みんなの前では落ち着いてる感じに見せてるけどねぇ」
 南に抱きつく俺を後輩達はあっけにとられ、同学年は面白そうにニヤニヤと見ている。それに気付いたのは、しばらくたって冷静になった南に殴られた後だった。



終わり